「ハイ・ブリッド民家」としての「養蚕民家」の再生工事・完成間近

 今回再生工事中の古民家「S邸」は、飯田市の南端桐林地区に建築された明治中期建築の「養蚕総2階建民家」です。
この地域はひな段状の水田地帯に、米作と養蚕を主産業としてすまい継がれてきた民家が点在し、農村原風景が維持されている貴重な地域でもあります。
 S邸は「養蚕総2階建民家」に多く見られる、下屋形態の水周り部を解体・除却し、既存部を耐震補強しながら、日常的な居住空間を新たな現代生活に適合するよう改築した「ハイ・ブリッド民家」ともいえる再生例です。


解体前、南西面から見た家屋の前景です。
大正末期に建築された「養蚕長屋」と2階部で繋がっているため、間口は11間もあります。
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長屋面からみた全景です。近代の便所と異なり衛生面・畑との連携を最優先に考慮して、
南面に建築された便所が今なお残っています。
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「養蚕長屋」との取り合い部です。居宅と長屋は別棟で建築されるのが通常であり、大変珍しい形態です。
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玄関の引き分け戸を開放した状態です。潜り戸が近年になり引き戸に改修されたと思われます。
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解体・改修される下屋部を、北面からみたアングルです。
元来平屋であった下屋部に「養蚕長屋」と連結するために2階部が増築されたと推測されます。
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敷地が水田地帯のためか床高は高く70cmです。
敷居を兼ねたケヤキ材の框は、成が尺2寸(36cm)もあります。
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西面から玄関まで通り抜ける「養蚕建築」独自の「格子モデュール型」の平面形態です。
家族のシンボル的な空間として長期にわたり住まい継がれてきました。
タタミの部屋は襖の貼り換え、クリーニング程度に抑え、次世代へと引き継がれます。
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浴室の天井面です。換気を考慮し、ヒバ材の勾配天井に竹製の換気ガラリが設置してあります。
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2階の接続部を壊し始めました。
サワラ材の板葺きの上に、直接瓦を葺く南信州の構法がよく解ります。
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小屋組が半分解体された状態です。
タル木のスパンは1間で架構されています。
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左面の長屋との接続部は、全て解体・撤去されました。
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今回のS邸のように建築基準法の緩和処置に順じ、既存部分を耐震補強しながら、
日常的な生活空間を現代構法により組み上げるのも一つの構法です。
現時代に適応しなくなった水周りを除却し、居間・食堂・サニタリー部を
「住宅性能表示」に適合するよう改修し、上・下座敷の持つ「シンボル的な空間」
と共に住み継がれるのも「養蚕民家」が次世代まで継承されうる一つの構法かと思います。

いわば伝統と近代構法が合致した「ハイ・ブリッド民家」ともいえる構法でしょう。